睡眠薬で認知症、それってホント?

東洋経済にこんな記事が載っていました。

認知症の数十万人「原因は処方薬」という驚愕

週刊誌のインチキ医療記事には毎度うんざりさせられているのですが、この記事も例に漏れず大きな問題があります。

睡眠薬の中でも昔から多用されていたベンゾジアゼピン系の薬(以下、BZD薬)と認知症との関連は、確かに4,5年前までは疑われていた時期もありました。ですが、最新の研究ではBZD薬は認知症の直接の引き金にはならないという説が一般的です。逆に、認知症の初期の症状で不眠や不安などが出現し、それに対してBZD薬が処方されることが多いため、一見関係があるように見えていたのだろうという説明も確立されています。殺人犯にパンを食べる人が多いからといってパンを食べると人を殺したくなくなるわけではないのと同じですね。

ですが、BZD薬にも全く問題がないかというとそうではなく、副作用として筋肉が弛緩しやすくなったり鎮静されすぎてしまうという問題があります。そのため、BZD薬を飲んでいると転倒や骨折、誤嚥が起こりやすくなるということは複数の研究で確認されています。

この東洋経済の記事では、BZD薬の副作用で筋肉の弛緩と鎮静が起こっていたため、中止したらそれらが改善したというのをあたかも認知症が治ったかのようにすりかえて書いてあります。薬を止めたら意識がはっきりしたという事実と睡眠薬で認知症になるという仮説とを慎重に言葉を選んで書いており、意図的に紛らわしく書いていると思われます。

一応記事内でも軽く触れられてはいますが、BZD薬は1ヶ月ほどの常用で身体的依存が形成されてしまい、その後は急に薬を中断すると不眠・不安・幻覚などの離脱症状が一気に出現することがあり大変危険です。くれぐれも記事を見て勝手に薬を止めないように気をつけて下さい。

全ての薬に言えることですが、薬というのは必ずメリットとデメリットがあり、双方をよく理解した上でデメリットよりメリットが上回りそうだと患者さんが納得してから飲むものです。副作用ばかり注目されやすいBZD薬ですが不安や不眠のため必要な状況もありますので、週刊誌の記事を鵜呑みにしないで薬の必要性について主治医と話し合うことをお勧めします。

最近は転倒や依存の危険性が少ないBZD系以外の睡眠薬も発売されており、当院でもBZD薬を少しずつ減量しながら中止した患者さんも多くおられます。漫然と睡眠薬を続けている方はぜひ一度ご相談下さい。

また、現代医学で認知症の原因とされており、かつ治療可能なものは高血圧・難聴・うつ病・糖尿病・喫煙の5つのみです。これに抗コリン薬という薬剤性が加わることもありますが、必要性があって使われていることがほとんどですので、認知症予防のためにはまず上の5つを治すように心がけ、他の妄言には耳をかさないようにして下さい。

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