本格的に寒くなってまいりました。有名人が亡くなったこともあり、「ヒートショックに注意」「温度差に気をつけて」と盛んにニュースで聞くようになりましたが、
実は”ヒートショック”という言葉は医学用語ではありません
例えばGoogle Scholarなどの論文検索で「ヒートショック」「heat shock」いずれで調べても検索される論文はヒートショックプロテインというタンパク質に関する論文がほとんどであり、学術的に定義された言葉ではありません。入浴中の死亡のことは医学的には「入浴関連死」という用語(そのまんまではありますが…)で研究がなされており、こちらの言葉で検索すると沢山の論文が出されていることが確認できます。
いわゆる「ヒートショック」に関してよく見かける説明も、「急な寒暖差で血圧や血の流れが変わって心臓や脳に負担がかかる」という何ともフワッとしたもので、言ったもの勝ちで証明もしづらい解説なので個人的には「そういう妖怪の仕業」と言ってるのと変わらないじゃないかと思っています。
実際に救急の現場でも、確かに入浴中に救急搬送される患者さんは冬に増えているのですが、統計上「ヒートショックで起こるらしい」と言われている心筋梗塞や大動脈解離、頭蓋内出血など臓器に異常のあることが原因の溺水は稀であるという結論が出ています。
原因は温度差ではなく、冬の熱中症
では何が原因なのかといいますと、「熱い湯につかりすぎたことによる熱中症」が冬によく起こる入浴中の死亡の正体です。これは別に私の妄想ではなく、既に10年以上前に厚生労働省の「入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究」(2013年)などで下記のように指摘されております。
つまり、冬だから温度差が大きくなって具合が悪くなるのではなく、
冬だから熱い風呂に長湯しがちなので意識を失って溺れやすくなる
というのが入浴中に起こる溺水事故の正体です。なので、ニュースでよく聞くように脱衣所を温めても熱い風呂に長湯していたら入浴中の死亡は減らせません。
冬の熱中症、どうやって防ぐ?
ではどうするのがいいかといいますと、
- 寒いからといって風呂の温度を上げすぎない(40度以下にしましょう)
- 冬の長湯は危険。体をじっくり温めたいなら半身浴などを併用する。
- 同居人がいる場合は10分ごとに声掛けをする(実際には難しいかもしれませんが)
などの対策が有効かと思われます。正しい知識で効果的な予防を行いましょう。